仕事が早く終わったので。夕方、タクシーさんにお願いをして、恩ある人のお墓に寄らせてもらいました。

墓地の中に車は入れないので、運転士さんには、終わるまで待機しててもらうことにして。お花を抱え、奥を目指して歩いてゆきます。

大きなお墓。小さなお墓。フツーのお墓。お地蔵さま。変わったカタチのお墓。まだ何も無い、空き地…。

昔と違って土葬ではないので、雨の後でも、死体が地上に出ている…なんて事はありえず。そういう気味の悪さは無いのですが、少しずつ暮れて暗くなって来るし、お彼岸やお盆の賑わいとは裏腹に、今日は全く人通りが無いしで。
延々と続く墓石の林を、一人、黙々と歩いていると、自分の体がふっと吸い込まれ、消えてしまうような気分になります。

いちばん奥の恩人の墓に、お花を活けて手を合わせ。ひとしきり近況報告をしていたら、止んでいた雨が、また降り始めて。タクシーに傘を置いて来たあたしは、慌てて、全速力で駆け出しました。

(もう少しで出口！)

と、思ったあたりで、ふと顔を上げたら、両手を前に突き出しながら向かって来る、無表情な男性の姿があり。その両手が、ギリギリ止まれたあたしの胸あたりを、ムニュ！

(ええっ！？痴漢？それともゾンビ？)

と、驚いたあたしは、

「きゃああああーっ！！！」

と、思いっきり大声で叫んでいました。

同時に、男性も、

「ぬおおおぉー」

と、絶叫。

悲鳴を聞いた運転士さんが、飛んで来てくれましたが。

男性は、近くに住む人で。夕方、この墓地で、手指の屈伸をしながらジョギングや散歩をするのが日課なのだそうです。
いつも誰にも会わないから、長い髪で白い服のあたしの姿は、幽霊にしか見えなかったそうで。
ぶつかられたのもビックリしたけど、すり抜けない上に体が温かくて、さらにビックリしたとのことでした。

両者、驚いただけで怪我が無かったので、お互い、握手をして別れました。

悲鳴に逃げずに来てくれた運転士さんには、大感謝です。
後日、会社に御礼に伺おうと思っています。

それにしても、お互いの、

(こんな所に、他の人はいないだろう)

という思い込みが、あやうく大事故を招くところでした。
ぶつかったのがお年寄りでなくて、本当に救われました。

どんな場所でも、前に進む時は、ちゃんと前を見て安全確認しながら行かなくてはだめですね。